粋な提案

高校に入学したばかりの沙織は、クラスメイトの孝子に「未来から来た」と告白される。
未来の世界で２７歳・無職の孝子だが、
イケてなかった高校生活をやり直せば未来も変えられるはずだ、と。
学祭、球技大会、海でのダブルデート…
青春を積極的に楽しもうとする孝子に引きずられ、
地味で堅実な沙織の日々も少しずつ変わっていく。

主人公沙織と２７歳から１６歳に戻ってきた彼女の親友孝子と
男子クラスメイトちひろ、村山の４人を軸に高校一年生の生活を描いた作品です。
負け犬となった孝子がもう一度人生をやり直すために１６歳に戻ってきた設定です。
高校１年の春から翌年進級までの学園生活。
席替え、球技大会、調理実習、文化祭、スキー合宿、恋愛模様。
表面上は若い世代に向けた「青春小説」ですが読むとかなり印象が違っています。
ぐいぐいと引き込まれるストーリーテリングの技が光る作品です。
未来から来た孝子でなく沙織を主人公にしたことに豊島さんの強い意志を感じました。
タイムトラベルモノなのに敢えてＳＦ的お約束を封印した展開にも個性を受け取れます。
クラス内の人間関係や立ち位置など日常生活の丁寧な描写の生々しさは流石です。
孝子が未来からやってきた理由は中々身につまされるもの。
でもこの先１０年間分の知識は優位に働かず、２７歳までの人生を背負っているため、
変えられない自分に苦しみ、やり直しの人生も同じ道をたどりそうになってしまいます。
次第に未来を見失ってゆく様子は読んでいてちょっと辛いものがありました。
沙織を取り巻く世界。孝子が秘密を打ち明けられた時から始まる微妙な方向転換。
結局そうした心の動きが沙織に一歩先へと踏み出す力を与えていくのです。
孝子から聞く未来話に左右されそうになってしまう沙織ですが、
未来（結果）を気にせずに生きていくことが最良の人生だと二人とも気づくのですね。
そして訪れる和解と未来を自ら切り開いてゆくという確かな決意の表明。
孝子と沙織の互いを思いやる心情に心が温かくなりました。
誰しも人生をやり直したいと思うことはあります。しかし実際には戻れないし、
戻っても本当に今思い描くような人生がやり直せるのかどうかはわからないでしょう。
今は過去の積み重ねで自己判断の結果であり、自分の意思がはっきりしていなければ、
やり直したとしてもまた同じ道をたどってしまうかもしれないです。
豊島ミホさんは青春小説を書かせたらナンバーワンの作家だと思います。
誰もが経験したような酸っぱいエピソードを織り交ぜるスタイルが大好きです。
全然派手なお話ではありませんがとても面白かったです。もしかして続編があるかも。
休業前の「リテイク・シックスティーン」豊島ミホさんの再起をお待ちしています。

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