「V.T.R.」辻村深月

怠惰な生活を送るティーのもとに、三年前に別れた恋人、
極上の美女アールからかかってきた一本の電話。
「アタシの酷い噂話や嘘をたくさん聞くことになると思う。
ティーにだけは知っておいて欲しいと思って。アタシは変わっていない」
街に出たティーが友人たちから聞くアールの姿は、
まるで別人のように痛々しく、荒んだものだった―。
彼女が自らを貶め、危険を恐れずに求めたものとは…。

架空の作家チヨダ・コーキのデビュー作として辻村深月さんが執筆したものです。
1000人限定で殺人の国家資格を与えられたマーダーが跳梁跋扈する殺伐とした世界。
へなちょこマーダーのティーが三年前に別れた恋人アールの電話を受けて始まります。
二人が信頼しあった関係であることを理解して、物語の世界に没入。
伝説のマーダー「トランス＝ハイ」との関係に気を揉みながら読み進みました。
アクションよりアールの消息を訪ねて歩くティーと交わされる会話が中心です。
特に月明かりのペロッチとティーのシーンは情景的で趣があります。
ラストの自分について語るシーンはいろんな意味で胸が熱くなりました。
静かな語り口に油断して、ラストの怒涛の流れに一緒に流されたみたいです。
ティーが傷を抱えてるからこそ取り巻く人々が温かく優しい。
それがむしろ、彼が背負わざるを得ないものを浮き彫りにしていて切なくなります。
心の絆「V.T.R.」辻村深月さんの歪だけど痛々しい覚悟を孕んだ一途な愛の物語です。

V.T.R. (講談社ノベルス)辻村深月

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「V.T.R.」辻村深月