佐紀もそろそろ禁煙したら、と玖美子にしては珍しい忠告をした。
いつもなら、うるさいなあと思ったはずなのに、神妙に頷き、
まあね、あたしもやめようかなあとは思ってんのよね、
と殊勝に答えると、そうしな、と玖美子は短く言った。
病院へ行った方がいいよ、と今度は私が忠告した。
行くよ、と玖美子は答えた。でも、結局行かなかった。
行かないで死んでしまった―残された者の悲しみは誰にも癒せない。
喪失の痛みを抱えて、ただただ丁寧に毎日を送ることだけ―。
注目の作家が描く、喪失と再生の最高傑作。
作者が繰り返し書いてきた題材。立ち止まってしまったが再び歩き出すまでの物語です。
主人公の再生までの過程を最も穏やかに、わかりやすく書けているような気がします。
死に続ける玖美子と、生き続けなければいけない佐紀。
生きているということは、変わっていくということ。
変わらない死者を心の中に押し込み、でも否応なく変わっていく自分への戸惑い。
それでも歩いていくことが生き続ける者たちに課せられた宿命なのです。
でも決して変わらないものも、この世には確かにあるって思います。
歩くことに疲れて立ち止まっても、変わっていく自分を受け入れるための勇気が大切。
主人公の佐紀も、私たちも再び歩き出すことができるのです。
それぞれのキャラクターがみんな魅力的。人を書くのが上手だなって感じます。
特にほんのちょっとしか出てない達貴さんの義理のお父さんがいい味。
編集者の君津さんも良かったです。パワーと子供っぽさと暴言に笑いました。
主人公の生き方を新人編集者女子が言う「すこやかな日々」、なるほどなと思います。
若くもなく独身で仕事にスランプも感じたりして決して楽しいばかりではない日々。
なのに、ゆったりと時間が流れている感じがとても素敵です。
大事な「戦友の恋」大島真寿美さんの良い本を読んだという気持ちになれる本です。
目次・戦友の恋/夜中の焼き肉/かわいい娘/レイン/すこやかな日々
「戦友の恋」大島真寿美 楽天からも購入できます。
「戦友の恋」大島真寿美
『戦友の恋』へのTBありがとうございました。
遅くなりましたが、こちらからもTBさせていただきます。
ぼくは気が多いのか、大島さんの本が気になるといいながら、別の本をとっかえひっかえ読んでいて、なかなか次の作品が読めません。
読みたい本が途切れたら、また大島さんの作品にチャレンジしてみます。