菫色の靄におおわれ、たゆたう惑星の海。
一見なんの変哲もないこの海だったが、内部では数学的会話が交わされ、
みずからの複雑な軌道を修正する能力さえもつ高等生物だった!
人類とはあまりにも異質な知性。しかもこの海は、人類を嘲笑するように、
つぎつぎ姿を変えては、新たな謎を提出してくる・・・・・
思考する「海」と人類との奇妙な交渉を描き、
宇宙における知性と認識の問題に肉迫する、東欧の巨匠の世界的傑作。
再読。SF界を代表する名作。異星人コンタクトものの分類を遥かに超越した凄い内容。
主人公のケルビン青年が惑星に赴任するところから、この不思議な物語が始まります。
ところが先に宇宙ステーションに着任しているはずの三人の研究者が見あたりません。
ステーション自体もこころなしか荒廃した印象があります。
まもなく姿を現した一人の研究者は、どことなく常軌を逸しているようです。
何かがおかしい、と彼は思います。密閉されたステーション内で何が起こったのか。
在るのはただ、すみれ色の靄におおわれて、もの憂げに波打つソラリスの海ばかり。
冷たいような、無機質な語り口で紡がれる物語。まるでホラー仕立ての展開です。
読み進んでケルビン青年が出会う未知のお客に、読者も一緒になって目をみはることに。
この広大な宇宙のどこかには地球人のほかにも知的生命体がいるだろうと告げる物語は
ほかにもたくさんありますが、この話はちょっとすごいです。
人間の理解を拒み、侵略してくるのでもなく友好関係を結ぼうというのでもない存在。
それは人の心を読み、最も触れられたくない過去の形を選り抜く能力を持っていました。
差し向けられたトラウマの過去たちは純真に現れて主人公たちの精神を侵食するのです。
主人公の内へ内へと心を強く強く揺さぶります。読んでいて気持ちが胸に迫ります。
茫洋として着地点の見えない展開が、主人公たちの焦燥感・孤立感を高めていきます。
そして、物語は終盤へ向かい、あるときを境に現象は途絶え平穏と静寂が訪れます。
ソラリスの海に害意があったのか、好奇心ゆえのいたずらだったかは分からないまま。
基本的な概念の枠組みすら共有していないのであれば意図を理解することは不可能。
星の海にへ出て行った先で、わたしたちのうちの誰かは彼らに出会うかもしれません。
勝つわけでも負かされるわけでも理解しあうわけでもなく、ただ触れるというかたちで。
自分自身について愛について、何も分かっていないのではないかと考えさせられました。
タルコフスキー監督の映画「惑星ソラリス」は長尺ですが独特の静寂な味わいのある作品。
『2001年宇宙の旅』や『ブレードランナー』と並び称される哲学的SF映画の金字塔。
1972年カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞。1978年第9回星雲賞映画演劇部門賞受賞。
ジョージ・クルーニー主演の「ソラリス」はハリウッドリメイクでちゃんとエンタメに。
でも残念ながらレムの著書のテイストを充分には描くことができなかった印象です。
「ソラリスの陽のもとに」スタニスワフ・レムの相互理解の難しさを描く記念碑的名作。




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「ソラリス」スタニスワフ・レムコレクション
「ソラリスの陽のもとに」スタニスワフ・レム
アンドレイ・タルコフスキー監督・脚本の映画「惑星ソラリス」
「ソラリス」ジョージ・クルーニー主演
本書にインスパイアされて書かれたのは、
こちら。「ソラリスの陽のもとに」スタニスワフ・レム
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