「あなたに贈るキス」近藤史恵

先輩、教えてください。
あなたがここにいないのは誰かを愛したせい？それとも誰かに殺されてしまったの？
閉ざされた学園を震撼させる一人の美少女の死。
愛ゆえの死か、悪意による殺人なのか……。
感染から数週間で確実に死に至る病。
その驚異的なウイルスの感染ルートはただひとつ、唇を合わせること。
かつては愛情を示すとされたその行為は、現在は国際的に禁じられ、封印されている。
ここは外界から隔絶され、純潔を尊ぶ全寮制の学園、リセ・アルビュス。
平穏な学園生活は、一人の女生徒の死をきっかけに、一変した。
「彼女の死は、“あの病”によるものらしい」と不穏な噂が駆け巡る。
不安と疑惑が増殖する中、あまりに謎めいた、“犯人（キャリア）”探しが始まる。
少女たちの鮮烈で甘やかで残酷な世界を描く、学園ミステリー。
昨年、刊行された作品に、サイドストーリーとなる特別書き下ろし短編
「夕映えの向こうに」を新たに収録した待望の新装版、登場。

テンポも良く、とても読み易いです。
キスによる唾液感染から死に至る病、ソムノスフォビア（唾液感染性睡眠恐怖症）。
世界中に広まり、唇を合わせるキスが世界的に禁じられている未来の世界。
この病気の設定は西澤保彦さんか石持浅海さん的な感じがして、なかなかすごいです。
名作映画『ニューシネマパラダイス』は、映画のキスシーンはふしだらということで、
映写技師が劇場で上映する映画のキスシーンをカットするのですが、
この本の中でもソムノスフォビアのせいでキス＝死につながることから、
過去の映画のキスシーンは全部カット、キス＝ふしだらという逆形式になっています。
外国ならばわりと気軽に挨拶のようにしてしまう行為が死につながるって、怖すぎ！
物語の舞台は全寮制の学園、カリスマのような美人がいるって、それは恩田陸さん。
穏やかで丁寧な筆致で、外界から隔絶された学校の雰囲気をよく描き出しています。
寮生活、お茶会、美しい女子生徒への憧れ。ちょっと百合な話なのがまたいいのです。
美詩と梢の意気込みや思惑の差、唇を合わせることに対して心境が変化していく様子。
普通だったらキスに憧れる年頃の女の子の感受性が最大限に生かされています。
少女漫画のような可愛らしい表紙とは裏腹に内容は超ダーク。
最終章はちょっと後味悪くラストのオチには賛否両論あるようですが、私は好きです。
主人公の深層心理にとても興味を持ちました。
「あなたに贈る×（キス）」近藤史恵さんならではの作品になっていると思います。
目次・あなたに贈る×／夕映えの向こうに

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