2012年秋アニメ映画公開決定。
人であって人でなく、犬の血が流れる異形の者―による凶悪事件が頻発し、
幕府はその首に懸賞金をかけた。
ちっちゃな女の子の猟師・浜路は兄に誘われ、江戸へ跋扈する人と犬の子孫を狩りにやってきた。
伏をめぐる、世にも不思議な因果の輪。
光と影、背中あわせにあるものたちを色鮮やかに描く傑作エンターテインメント。
人間の姿をして悪行の限りを尽くす犬人間「伏(ふせ)」が跋扈する江戸。
身寄りがなくなり異母兄の道節を頼って江戸にやってきた山出しの狩人少女、浜路。
この兄妹が伏に掛けられた懸賞金を目当てに賞金稼ぎの狩りに乗り出します。
『南総里見八犬伝』の登場人物を借りて、桜庭一樹さんがまったく別の物語を書いてます。
本来、勧善懲悪の八犬士たちは江戸の町を荒らす半獣半人の妖怪(伏)として登場。
それを「伏ハンター」の犬山道節と浜路が追いかけるというストーリー。
つまり、曲亭馬琴の登場人物を元にした「吸血鬼ハンター」的な設定の小説です。
見た目は人間ですが身軽く気ままで時に残虐で体のどこかに牡丹の様なあざがある伏。
寿命は20年くらいと短く、人間社会に紛れ込んで生きています。
浜路はそんな伏を追いかけているうち、滝沢冥土という青白い男に出会います。
曲亭馬琴の息子・冥土は伏に関する瓦版を売りつつ伏について詳しく調べていました。
そして、父・馬琴の書く里見八犬伝の本当の物語、里見義実とその姫・伏姫、
弟の鈍色と彼が拾った犬・八房の物語を浜路に語って聞かせるのでした。
作中に冥土の著した贋作・里見八犬伝や信乃の語る伏の森という章を挟む構成。
本編のなかに挿入した入れ子の小説を紐解くうち、明らかになっていく伏の出自の謎。
江戸にわずかに残った伏を浜路が追いかけながら、その過程で出会う冥土や信乃に
伏にまつわる物語の始まりと終わりを語らせるという構成になっています。
未完成の物語は終盤で浜路が対峙する信乃の語りによって収斂されていくのです。
浜路は狩る者で信乃は狩られる者ですが、ふたりの足場はシーソーのようです。
立ち位置が少しでもずれれば立場は逆転。狩るはずの者が殺される場合もあること。
その瞬間ふたりはまったくの対等と言えます。
互いの立場が理解できるからこそ、その瞬間に友情めいた感情がチラリと交わります。
たぶん犬人間として生きなければならない孤独や哀しみを初めて理解したのは浜路。
基本的には秩序を守るために伏を討つという姿勢は揺らがせないものの、
その幼い純粋さにより、伏の生き様にも涙し共感したりするのが桜庭一樹さんらしいです。
犬人間としての粗暴さとは真逆な「生きる痛みを忘れるために美しいものを見る」。
信乃が故郷の森で見つけた蛍をガラス瓶に閉じ込めて大切に持ち歩いているさまが、
伏として生きなければならない彼らの哀しみと孤独をよく現しているように思います。
映画のタイトルは「伏-鉄砲娘の捕物帳」です。
監督は『千と千尋の神隠し』で監督助手を務めた宮地昌幸さん、
脚本は『コードギアス 反逆のルルーシュ』の大河内一楼さん、
音楽に『鋼の錬金術師』の大島ミチルさん、
浜路は「けいおん!」の寿美菜子さん、信乃「DEATH NOTEデスノート」宮野真守さん、
道節は小西克幸さん、船虫は坂本真綾さん、馬加は神谷浩史さん、
徳川家定は野島裕史さん、その他にも竹中直人さんや劇団ひとりさん等。
文藝春秋創立90周年記念アニメーション作品。
別物「伏 贋作・里見八犬伝」桜庭一樹さんの大胆な脚色力。爽やかな読後感でした。



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「伏 贋作・里見八犬伝」桜庭一樹
「伏 贋作・里見八犬伝」桜庭一樹(文春文庫)

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