あの男は、もの言う幻だったのかも知れぬ――。
気鋭の直木賞作家が描く、怪奇小説の傑作!!
大正三年、東京。
画家を志し、家を飛び出す槇島風波(まきしまふうわ)。
闇を幻視する美貌の天才画家、穂村江雪華(ほむらえせっか)。
根津、蟋蟀館に集う異形の面々。心を略奪する美の蒐集家。
変わりゆく帝都を彷徨う未練者(みれいじゃ)たちの怪異。
続篇が切望される好シリーズである。―東雅夫氏
―千街晶之氏書評より―
全く架空の人物、歴史上実在した人物、明らかに実在の人物をモデルにしてはいるが
虚構の人物など、さまざまな位相のキャラクターを同一時空に存在させることで、
本作は虚実双方にまたがった大正時代のパノラマの様相を呈している。
歴史と虚構を組み合わせ、更に人間界と霊界をも自在にシャッフルして
眩惑的な世界を現出する技巧は、精緻な寄せ木細工を連想させるものがある。
大長篇と短篇集というスタイルの違いこそあれ、本作は荒俣宏の『帝都物語』
の系譜に連なる“東京幻想”小説の豊かな成果と言えるだろう。
収録作品・墓場の傘/鏡の偽乙女/畸談みれいじゃ/壺中の稲妻/夜の夢こそまこと
昭和を描いた作品が多くそのイメージが強い朱川さんですが今回の舞台は大正時代。
主人公が遭遇する不思議な出来事を描く、5話収録の連作短編集です。
主人公は槇島功次郎。画家志望の若者で父親からの反対で一人暮らしを始めます。
不思議な雰囲気を持つ同じ画家志望の青年穂村江雪華(ほむらえせっか)と出会う。
そして雪華と出会ったあと、主人公は様々な怪奇現象に遭遇することになります。
最初は男色かと思いましたがその雰囲気も大正という時代に合っている気がします。
何だかつかみ所のない雪華という男の関わりで奇妙な事が次々と起こります。
短い時代、大正のイメージは「浪漫」という言葉くらいしか浮かばないので、
本当にこんな不思議なことが起こっていたのかもと感じました。
ワクワク・ドキドキのお話が5つ詰まった一冊です。
内容は、この世に未練を残して亡くなった者の霊魂がこの世に残るというもの。
第三話の「畸談みれいじゃ」から、「みれいじゃ」が現れ更に面白くなります。
「みれいじゃ」とは美麗者ではなく「未練者」がなまった言葉のようです。
死んでも死にきれぬ強い執着を持つ者が死後変化して生きている様にふるまう。
ただし、自分が死んだことを他人に知られると土に戻ってしまう存在。
この時代独特のの雰囲気と「みれいじゃ」の存在の不可思議さが絶妙にマッチ。
ゾクゾクするほど好きな世界観で、ページを進めるほどに面白くなってきました。
三郎が出てくるところから引きこまれ、新撰組が絡んできてなるほど。
完全なフィクションに実際の出来事もうまく絡めてあるから興味も深まります。
現実か夢か幻か、その境界線をうまくぼやけさせてしまうのが朱川さんの真骨頂。
3話と5話は、この世に未練を残した人間の心が哀しく切なかったです。
雪華は何者なのか、風波の密かな思いはどうなるか、お欣だけ見える大きな石とは。
不思議な登場人物たちのバックグラウンドもまだ明かされていない部分が多いです。
終わり方も中途半端です。まだまだ知りたいことがたくさんあります。
「鏡の偽乙女」朱川湊人さんの大正怪奇浪漫。ぜひ続きを読みたいです。

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「鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様」朱川湊人
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