俺は記憶のないころから鍵盤に触れてきた。
聖書に噛みつき、ロックに心奪われ、メシアンの難曲と格闘する
眩しい少年期の終わり。
2011年の第57回青少年読書感想文全国コンクール課題図書
(中学校の部)に選ばれる。
少し早い、俺たちだけの聖夜。そのオルガンは、特別な音で鳴った。
18歳の少年が奏でる、感動の音楽青春小説。
オルガン演奏を題材とした小説。オルガンの魅力が十二分に伝わってきました。
主人公の高3男子はキリスト教系の高校に通い「オルガン部」に所属しています。
キリスト教系なので賛美歌を歌う時に毎回オルガンを弾くオルガン部があるのです。
また、家が教会である為小さいころからオルガンに親しんでいます。
そんな環境で暮らしていますが宗教とは少し距離を置く態度を取っています。
魅力的でクールな主人公。少し大人びている感じです。
厳格なキリスト教徒の父、家を出て行った母、少し普通とは違う経験があります。
オルガン演奏、ロック。オルガン部のコーチや仲間、級友を巡る物語。
人物だけでなく音楽は一つではないこともまた、彼を少しづつ開かせていきます。
例えばロックがクールな彼をいろんな意味で変えていく。そのもがく姿が良いです。
簡単に先になんか進めないし、かといって、目に見える障害があるわけでもない。
それでも時間は流れるしわかることが増えていく日々の積み重ねが輝かしいのです。
ピアノは弦による発音でオルガンは管による発音。根本的な原理が全く異なる事。
オルガンは同じ鍵盤楽器であるピアノとは全くの別物であることを知りました。
読み手がイメージできるような、体験の記憶、体験の回想。感覚の再現。
音楽を文字で表現することのすごさを感じることができました。
パイプオルガンの音、メシアンの不思議さが浮かんできて惹かれます。
音楽専攻ではない高校生がこんなに深く音楽をするのかという驚きもありました。
だからこそ隔たりなくバロックとロックが繋がっていくのかと納得したりしました。
音楽ってかっこいい、楽器の上手い人ってすごいと素直に思いました。
高慢で嫌な奴に思えそうな主人公が、でも全然嫌な奴には感じられずかっこいい。
主人公はクリスマス・コンサートでひとつの区切りを着けようと決心します。
しかし、ラストはコンサートのリハーサルまでしか描かれないのが心残り。
余韻の残る素晴らしいラストでしたが決着を読みたかった気もします。
静かに美しい音楽が流れているような、優しくてじわりと染みてくるお話です。
作中で演奏されている曲を聞いてみたくなりました。
「聖夜 School and Music」佐藤多佳子さんの素敵な音楽青春小説です。

楽天からも購入できます。

「聖夜 School and Music」佐藤多佳子
オルガンが管楽器だなんて知らなかったし、メシアンの難曲がどのようなものか上手く想像もできないのですが、その魅力が十分に伝わってくる、素晴らしい小説でしたね。