せめて、きちんとした不倫妻になろう。
満ち足りているはずの生活から、逃れようもなくどんどんと恋に落ちていく。
恋愛を、言葉の力ですべて白日の下にさらす、江國作品の新たなる挑戦!
私は転落したのかしら。でも、どこから?
会社社長の夫・浩さんと、まるで軍艦のような広い家に暮らす美弥子さんは、
家事もしっかりこなし、「自分がきちんとしていると思えることが好き」な主婦。
大学の先生でアメリカ人のジョーンズさんは、純粋な美弥子さんに心ひかれ、
二人は一緒に近所のフィールドワークに出かけるようになる。
時を忘れる楽しいおしゃべり、名残惜しい別れ際に始まり、
ふと気がつくとジョーンズさんのことばかり考えている美弥子さんがいた――。
恋愛のあらゆる局面を、かつてない文体で描きつくす意欲作!
主婦の美弥子さんがジョーンズさんに恋して真理を発見し世界の外側へ出てしまう物語。
物語の舞台は親しい近所付き合いが残る日暮里の住宅街。
美弥子さんは家事全般をきちんとこなす気まじめで明るい奥さんです。
夫の浩さんは実家の会社社長でとても忙しいけれど、子どもなしの二人は仲のいい夫婦。
近所には日本語が堪能のアメリカ人、ジョーンズさんが住んでいます。
五十半ばの彼は大学の先生で美弥子さんを「小鳥のようにかわいい」と評する人。
ある時「フィールドワーク」とジョーンズさんが呼ぶ近所の散歩に誘われます。
美弥子さんは家の外に広がっていく世界の新鮮さに目を見開かれていくのです。
まず、主に児童文学作品で使われていた「です・ます」調の語り口に驚かされます。
この話にぴったりで、「立体生身」なんて古めかしい言葉もしっくり合ってます。
それにジョーンズさんが従来の江國作品の男性とはかなり違い、とても爽やかで渋い。
愛読書は谷崎の『陰翳礼讃』で、アパートの部屋は「禅寺」のように片付いているほど。
美弥子さんは、ジョーンズさんのことで頭が一杯でも肉体関係なんてない「お友達」で、
家事も手抜きせず、夫にも報告しているのだから誰はばかることもないと思っている。
惹かれ合う二人の視点なので、白昼堂々と歩き回る姿がご近所の目にどう映るかなど、
読む方もすっかり忘れ、そうそう、恋ってそういうものよと読み進んでいった先に 。
気づけば激昂する夫。「世界の外へでちゃった」「転落した」と感じた美弥子さん 。
薔薇をあしらったゴヤの版画の表紙、江國さんの作品が持つ独特の空気感、
初期の作品が漂わせていた透明感と胸を掴む淡い恋までのナイーブな感情の表現、
本当は怖い童話のような残酷なエンディング、それらが見事に結実しています。
慎ましいのに大胆な主人公に、共感できました。
「真昼なのに昏い部屋」江國香織さんの懐かしいのに新しい巧みな恋愛小説。

楽天からも購入できます。

「真昼なのに昏い部屋」江國香織
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