赤字建て直しをはかる世良院長、目前の命を必死に救う救急医の速水、
孤島の診療所の久世医師の姿をとおして、再建の道をさぐる。
メディカル・エンターテインメント第2弾。
物語は閉鎖の危機にある極北市民病院に、
赤字建て直しのために世良院長がやって来たところから始まる。
彼は再生のために、訪問介護の拡充、人員削減、投薬抑制をかかげた。
また世良院長は雪見市の極北救命救急センターに外科医・今中をレンタル移籍した。
瀕死の地域医療でもっとも厳しい局面にたつ救急医療。
速水センター長の指示をあおぐことになった。
移籍から3日目には、速水が指揮をとる「将軍の日」で、
入れ替わり立ち替わり救急患者が訪れる一日になった。
文字通りの救急医療の修羅場に遭遇する今中。
一方、極北救命救急センター長の桃倉は息子が出場したスキー大会を見学していたが、
雪崩に巻き込まれ、命が危険な状態に。速水はドクターヘリの出動を宣言した。
医療と行政の根深い対立をえがき、
地域医療の未来を探る渾身のメディカル・エンターテイメント。
目次・ 第一部極北の架橋 1章通り過ぎるサイレン 2章テレビ先生の三つの宣言
3章赤鼻課長の訪問 4章世界は孤立していない 5章古巣探訪
6章極北市を治療しましょう 7章市長懇談会 8章監察医務院の闇 9章救急車の静寂
……第二部雪見の夏空 第三部光のヘリポート 第四部オホーツクの真珠
破綻した自治体の市民病院と、その隣の対照的な自治体の救急医療が題材の物語。
前作からその後の市民病院の大規模縮小した状況から小説は始まります。
救急医療は隣の市まかせ、薬はできるだけ出さないようにするなど、
一見、医者が患者を選り好みしているような状況に陥っています。
救急医療を受け入れている隣の自治体はドクターヘリの導入など先進的な医療体制です。
話は3つの出来事から成り立っています。
第一部は治療費未払いの患者が治療を受けずに帰る途中で死亡した出来事。
これをメディアは診療拒否と見て、前作同様メディア対医療の戦いが繰り広げられます。
第二部でドクターヘリの紹介と良い点を述べた後、
第三部ではこのドクターヘリの盲点、有視界飛行が基本にあるための「規制の枠」。
そこを超えた救援活動のエキサイティングで悲しい後始末のお話。
第四部で医師とはどのようであるべきなのかという投げかけの回答の一つのような、
離島の出来事で構成されています。
悪戦苦闘する医療関係者の実態がよく描かれています。
いくつかのシリーズで登場した人物のその後を知る楽しみもあります。
世良、速水、花房を始め、魅力的なキャラクターが満載です。
新登場の伊達、五條、大月、越川も秀逸。久世先生や桃倉センター長の存在感も絶大。
しかしこの物語で重要なのは不器用で平凡ですが誠実な医師、今中の存在でしょう。
ジェネラルと桃倉の師弟関係など様々な見所がありますが、反面でこのような
天才が活躍するエピソードが多いと、どこか浮世離れしてしまいそうなもの。
この作品を印象深くしているのは、前述した平凡な今中医師の存在と言えそうです。
誠実に医療、患者と向き合うことを望み、自分が何をすべきかと葛藤している姿は、
これまでに描かれていない海堂尊作品の希望であり財産となっていきそうです。
前作で未熟だった今中のキャラクターが成熟した今、
海堂尊作品には新たな地平が見えて来ているような気がします。
全作品既読で細部まで面白く感じますし、全作品にリンクしているのがわかります。
袋小路の様な現状の矛盾に、悲しいまでの理想を投げかけて終わる事が多い作風。
珍しく具体性のある回答で終わっていて、温かさを感じる作品になっています。
北の大地らしい素朴なキャラクター使い。とても好感をもって読み進められました。
敬称略・瑛太が今中役でNHKドラマ初主演。世良雅志は小林薫、並木梢は加藤あい。
やっぱりカッコいい!ジェネラル速水は山口祐一郎、今中万里子に松坂慶子ほか
徳井優、りりィ、三宅弘城、高橋昌也が出演。
放送は3月19、20日午後10時から総合テレビで2夜連続の予定です。
「極北ラプソディ」海堂尊さんの地方医療エンターテインメント。今後も期待しています。

楽天からも購入できます。

「極北ラプソディ」海堂尊
もう一波乱欲しかったような気もしますが。
もう限界でしょうなあ、海堂さん、世界を広げすぎちゃった。
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