全知の天に運命を委ねる占の国ヴィオン。生まれながらにして毒と呪いの言葉を吐き、下町に生きる姫がいた。星と神の巡りにおいて少女は城に呼び戻され、隣国に嫁げと強いられる。『薄汚い占者どもめ。地獄に堕ちろ!』姫君は唯一の武器である声を奪われた。星の石ひとつ抱き、絶望とともに少女は向かう。魔物のはびこる夜の森、そのほど近くの聖剣の国レッドアークに。少女を迎えたのは、夜の王に祝福を受けた、異形の手足を持つ王子だった。第13回電撃小説大賞大賞受賞作『ミミズクと夜の王』の続編、登場。
前作既読未記事。広がった世界観と登場人物に前作同様あっという間に引き込まれました。
今作の主人公はタイトルの毒吐姫ことエルザと前作に登場したクローディアス王子です。
運命を呪うお姫様と魔王の祝福を受けた王子の若い二人の話が綴られていきます。
今回の主人公は、ちょっと登場する前作主人公のミミズクと違って自立した女の子。
ひとりでたくましく生き抜いていける女の子が、無理やり結婚させられそうになって、
それに反抗し、紆余曲折を経て落ちつくところに落ちつく、というお話です。
重い運命を背負うには若すぎる二人の切なくて痛くて悲しくも暖かい物語。
キャラを深く掘りすぎることなく、独特のやわらかな世界観が構築されています。
つらいことや苦しいことが続きますが周囲の人の優しさ、温かさが主人公の心を救い、
そして救われた主人公が自分にもできることがあることに気づく。
人は変わることができるんだということをストレートに語ってくれたように思えます。
王道なのに胸に響くような、いつもの作者の十八番ともいえる素晴らしい内容です。
お馴染みの人達もそんな二人のラブストーリーに絶妙に絡んできて、
物語を盛り上げてくれます。前作ファンにはうれしいシーンもちらほら。
前作で個人的に好きだったアンディとオリエッタが出てきて、うれしかったです。
ライトノベルを超える様な作風や筆致が、作品世界の中に自然と溶け込んでいます。
内容も『ミミズクと~』の続編でありつつ、これそのものが一つの物語でもあります。
言い回しや言葉使いも良い意味でいっそう世界観を柔らかくしている印象も受けました。
人の優しさだけでなく醜い部分までも加減して世界観の中に投影させる技術は流石です。
作者特有の甘いフェロモンのような雰囲気は健在で、心地よい読後感を味わえます。
「ミミズクと夜の王」の後日譚としても、別のひとつの作品としても面白かったです。
主人公も彼女を取り巻く人たちも、この結末でよかったなあと思いました。
読んだ後にホッと優しい気持ちになれるような素敵なおはなしです。
あとがきに書かれていたスピンオフ短編「鳥籠巫女と聖剣の騎士」の文庫化も期待です。
辛辣で可愛い「毒吐姫と星の石」紅玉いづきさんらしい作品でした。次も楽しみです。
「毒吐姫と星の石」紅玉いづき
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