娘の笑顔を奪われた男は刑事の道を選んだ。そのまなざしは何を見つめているのか―。
思わず涙があふれ出す連作短編集、
ぼくにとっては捜査はいつも苦しいものです―
通り魔によって幼い娘を植物状態にされた夏目が選んだのは刑事の道だった。
虐待された子、ホームレス殺人、非行犯罪。
社会の歪みで苦しむ人間たちを温かく、時に厳しく見つめながら真実を探り出す夏目。
何度読んでも涙がこぼれる著者真骨頂の連作ミステリ。
推理作家協会賞短編部門候補作など全8短編ドンデン返しのラストのあまりの絶望に背筋も凍る、
推理作家協会賞短編部門候補作「オムライス」他、
冷静沈着だが重い過去を持つ刑事夏目が謎を解決する8短編。
『オムライス』…内縁の夫が焼け死んだ台所の流しの「オムライスの皿」、
『黒い履歴』…クレーンゲームのぬいぐるみ「ももちゃん」、
『ハートレス』…ホームレスに夏目が振舞った手料理「ひっつみ」、
『傷痕』…自傷行為を重ねる女子高生が遭っていた「痴漢被害」、
『プライド』…ボクシングジムでの「スパーリング」真剣勝負、
『休日』…尾行した中学生がコンビニ前でかけた「公衆電話」、
『刑事のまなざし』…夏目の愛娘を十年前に襲った「通り魔事件」、
過去と闘う男だから見抜ける真実がある。薬丸岳だからこそ書けるミステリーがある。
娘の事件で刑事になった夏目が過去と戦いつつ独自の視点で事件を解決していく短編集。
デビュー作から一貫して重くて辛くなるほど強烈なイメージがある薬丸岳作品ですが、
今回は落ち着いた雰囲気で優しげな夏目刑事のキャラクターが新しい試みで良いです。
短編のひとつひとつが秀作で、涙が出るものもありました。
東野圭吾さんの加賀恭一郎とも雰囲気がダブる感じの、ハートフルな仕上がりです。
短編の所々で夏目が前職から刑事になる決心をした娘の事件のことを想起していて、
最後の一編でその謎が暴かれることになるため、長編を読んだような印象にもなります。
短編をつないだ最後で夏目という人物のひとつの物語になっているのも素晴らしいです。
この最後の一編により単なる短編集から一段高い内容になったように感じます。
捜査に対する姿勢が独特な夏目刑事。シリーズものとして今後も書いてほしいです。
優しい「刑事のまなざし」薬丸岳さんの次回作もとても楽しみにしています。
楽天からも購入できます。

「刑事のまなざし」薬丸岳
内容を、ほとんど忘れていたのですが、
藍色さんの感想を読んで、また読んでみたく
なりました。