『SPUR』の大人気連載だった本作は、柳島家三世代にわたる
「風変りな家族」の歴史を、時代、場所、語り手を変えて重層的に描いた物語です。
一見、完璧に幸福にも見える家族がそれぞれに抱える秘密の想いが明らかになる過程は、
ミステリを読むようにスリリングです。
柳島一族の、憧れを喚起する優雅な生活様式、高潔な価値観、複雑な愛情関係に、
心わしづかみにされること請け合いです!
三世代にわたる「風変わりな一族」の物語
東京・神谷町の洋館に暮らす柳島家は、ロシア人の祖母、変わった教育方針、
四人の子供のうち二人が父か母が違う…等の事情で周囲から浮いていた。
時代、場所、語り手を変え、幸福の危うさ、力強さを綴る。
ちょっと浮世離れした風変わりな柳島家の三世代にわたる歴史とそこに住む家族、
それに係る人々の人生を何年もかけて書かれた江國さんの傑作です。
風変わりな柳島家という大家族、三世代の歴史を約50年にわたって描いた重厚な大作。
最初は読むのを躊躇するほどの594ページの長編小説で23の短編から構成。
1960年と2006年の間を前後して進行。登場人物の関係が複雑で最初は頭が混乱。
柳島一族と、彼らと関わった人々が交互に独白スタイルで語る形式が独特です。
一人一人個性的な登場人物。その中の一人が各短編の語り手になって物語は進みます。
柳島家の家族関係、その変遷がひも解かれていきます。
それぞれの人物の特徴と家族構成が呑み込めて、物語を追いかけるようになりました。
今度は誰が語り手になるか楽しみながら、どんどん物語の中に引き込まれていきました。
冒頭の1982年で4人の子供。父親が異なる長女、末っ子の二男は母親が異なる等、
複雑な家族構成に加えて、独身の叔父・叔母や祖父母が同居しています。
各々の人生や家族にまつわるエピソードが総勢10人以上の視点から語られるのです。
同じエピソードでも語る人によって受け止め方や人物評価が異なるのが面白かったです。
このような複雑な構成とキャラクターを書き分ける力量にも脱帽でした。
家族であっても秘密を持ったり、どこか折り合いをつけたりしていること。
そしてそれは例えば、傍から見れば気難しく人付き合いが嫌手な人であっても、
その裏側には最も親しい家族にさえ打ち明けていない辛い経験があるというように、
人には各々の個人史があるのだなということを今更ながら実感させられました。
そんな個人が集まって構成する家族という集団の不思議さ有難さを改めて想います。
江國さん独特の視点、表現の仕方を味わい癒されながら心地よく読めました。
「抱擁、あるいはライスには塩を」江國香織さんの見事な家族の歴史タペストリーです。
楽天からも購入できます。

「抱擁、あるいはライスには塩を」江國香織
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