あの人の額装からは、音楽が聞こえてきた―。
十九年間、黙ってきた。十九年間、どうでもよかった。
「私にはちょうどいい出生だった」未熟児で生まれ、両親はばらばら。
「あなたの目と耳を貸してほしいんだ」混線していた私の世界がゆっくり静かにほどけだす。
はじまりは、訪問介護先での横江先生との出会い。
そして、あの人から頼まれた額装の手伝い…。
「ひとつひとつ揺り起こして、こじあけて、今まで見たこともなかった風景を見る」
心をそっと包みこむ、はじまりの物語。
未熟児で生まれ、何か少し足りないと言われて、公立の小・中・高校を卒業した主人公。
そんな経歴の19歳の女性、佐古さん。ホームヘルパーとして働き始めます。
彼女のピュアな感性に理解を示す家族との出会いで、新たな世界の見方を教えられます。
全体の流れを追うだけの読み方だと中途半端な終わりに疑問符がつく作品でしょう。
とっても静かな物語です。装丁も挿絵も展開も目立たない、派手とは縁遠く地味。
ストーリーや構成、伏線の整理をこの作品で主眼にして読むと残念な読書になるかも。
私たちが日常の波に溺れて、見落としてしまっている些細な出来事や感情の揺れ。
それらが実は私たちを豊かにしている。そんな人間らしい幸せに気づかされる作品です。
他愛もない会話、仕事場に充満する匂い、なんてことはない風景の数々。
そんな場面が、まさしく額縁のように切り取られ、その情景がすっと頭に浮かびます。
額装という仕事を通して見えてくる、ひとつの窓の向こうの新しい眩い世界。
「窓の向こうのガーシュウィン」宮下奈都さんらしい視点の人生を見つめた作品です。
楽天からも購入できます。

「窓の向こうのガーシュウィン」宮下奈都
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◆(ものがたり)
19歳のヒロイン佐古は、未熟児として生まれて、身体的な劣等感を持っている。
小学生の時に家を出たままで、娘が19歳になる今まで帰ってこなかった父親。ある日家に帰ると、見知らぬ男性を連れ込んでいる母親。そんな自分勝手に見える両親。それらを理由に、喜怒哀楽の感情や、思ったことも口に出さず、周囲のことなんてどうでもいいやと思いながら生きてきた。
ヘルパーとして、79歳の...
まだ、見ていない世界がある。
行動することで見えてくる世界があるよっていう作者の思いを感じました。