1999年、台湾に日本の新幹線が走ることになり、
入社4年目の商社員、多田春香は現地への出向が決まった。
春香には忘れられない思い出があった。台湾を旅した学生時代、
よく知らないまま一日を一緒に過ごした青年がいた。
連絡先をなくし、それ以後ずっと会えないままだった……。
台湾と日本の仕事のやり方の違いに翻弄される日本人商社員、
車輛工場の建設をグアバ畑の中から眺めていた台湾人学生、
台湾で生まれ育ち終戦後に日本に帰ってきた日本人老人、
そして日本に留学し建築士として日本で働く台湾人青年。
それぞれをめぐる深いドラマがあり、
それらが台湾新幹線の着工から開業までの大きなプロジェクトに絡んでいきます。
政治では問題を抱えていても、日本と台湾の間にしっかりと育まれた個人の絆を、
台湾の風土とともに色鮮やかに描く『路(ルビ:ルウ)』。
大きな感動を呼ぶ、吉田修一さんの渾身の力作です。
ホテルの前でエリックからメモを渡された。彼の電話番号だった。
「国番号も書いてあるから」とエリックは言った。
すぐに春香も自分の電話番号を渡そうと思った。
しかしエリックが、「電話、待ってる」と言う。
「電話を待っている」と言われたはずなのに、春香の耳には「信じてる」と聞こえた。
春香は自分の番号を渡さなかった。
信じている、あなたを、運命を、思いを、力を―。
商社員、湾生の老人、建築家、車輛工場員…
台湾新幹線をめぐる日台の人々のあたたかな絆を描いた渾身の感動長篇。
物語のスケールが大きく、とても爽快感のある大きな物語です。
主体は台湾旅行をきっかけに知り合った二人の物語ですが、物語の視点が三つあります。
前半ではそれぞれ別の人生を生きているのが、物語が進むにつれ、
「台湾新幹線」という共通項のもと、かかわりを持っていきます。
人間ドラマとしても感動的な小説でした。様々な人間模様が鮮やかに描きだされています。
台湾という国の文化や考え方、日本人にはわからない様々なことを詳しく書いています。
日本人と台湾人の気質の違いギャップを乗り越え「互いに相手を心から尊敬し認め合う」、
作者の姿勢が貫かれている物語。新幹線開通のラストに向け、それぞれの人生も走り出す。
並走するいくつかの物語で、そっと寄り添うように人生が走るのも吉田修一さんならでは。
話がうまく行きすぎとも思えますが、読み終えて人間っていいものだなと感じるでしょう。
台湾という国に思いを馳せることの重要さも感じました。
路(ルウ) 吉田修一さんのとても温かい絆の物語です。
楽天からも購入できます。

「路(ルウ)」吉田修一
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