妻も、読者も、騙される! 『悪人』の作家が踏み込んだ、〈夫婦〉の闇の果て。
これは私の、私たちの愛のはずだった――。
夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、
桃子は誰にも言えぬ激しい衝動に身を委ねるのだが……。
夫婦とは何か、愛人とは何か、〈家〉とは何か、妻が欲した言葉とは何か。
『悪人』『横道世之介』の作家がかつてない強度で描破した、狂乱の純愛。
本当に騙したのは、どちらなのだろう?
東京郊外に義理の両親と同じ敷地に住む、結婚して8年になる主婦の初瀬桃子。
美人でよく気がつき努力家でもある彼女はカルチャーセンターで週一回講師をしています。
しかし夫が愛人を作り離婚を切り出して、結婚生活に不穏な空気が高まります。
義父の入院と義母との確執も加わり次第に追い詰められた桃子は意外な行動に走るのです。
一般的なサラリーマンの夫の不倫、姑との確執、舅の介護などを絡めて、
よく世間で見聞きするような、俗っぽい題材をもとに離婚劇が繰り広げられます。
日常描写がうまく、読んでいると映像が浮かぶような書き方です。
桃子の一人称の語りが新しい試みです。女性の書く日記も頻繁に挿入されています。
思い詰めた言葉が改行なしで続く日記が、重要な役割を果たしています。
恋愛小説でなくミステリ要素の強い現代小説。一人の女性の内面の危機を描いていきます。
次第に追い詰められていく桃子のリアリティあふれる心象表現。不安感が全編を覆います。
どこにでも起こりうる話なはずなのに、これほど壮絶に生々しく描くのはさすがです。
途中、あれっ?と思い最初に戻って読み返しました。あやうく騙されそうになりました。
ドロドロしたストーリー展開とすばらしい構成力。仕掛けが面白くとても引き込まれます。
愛に乱暴という題名ですが人間の孤独が深く描かれています。その孤独が人を狂わせます。
怖いほどの狂気に。これは私たち、みんなの心にある狂気なのかもしれないです。
主観での書き方でミステリーの雰囲気もあり、村上春樹さん的な要素も味わえます。
最後までいろいろな伏線を張り巡らせながら、女性心理を巧みに描く語り口。
少しだけ救いが見られて、そうだよねと思わせる按配のいいラストに感嘆しました。
「愛が乱暴」でも「愛の乱暴」でもなく「愛に乱暴」吉田修一さんのタイトルも秀逸です。
楽天からも購入できます。

「愛に乱暴」吉田修一
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◆2013年7月3日「愛に乱暴」(新潮社)吉田修一 久々に吉田修一らしい作品来た!という感じです。考えてみると、「路」も「太陽は動かない」も「平成猿蟹」も"らしく"なかったんですよ ...
これは私の、私たちの愛のはずだった―
本当に騙したのは、妻か?夫か?やがて、読者も騙される狂乱の純愛。
“家庭”にある闇奥。“独り”でいる孤絶。
デビュー以来一貫して、
「ひとが誰かと繋がること」を突き詰めてきた吉田修一が、
かつてない強度で描く女の業火。
内容(「BOOK」データベースより)
狡猾な罠(トリック)。
”種(タネ)” より ”仕掛け”
その手法に脱帽です...
「愛に乱暴」 吉田修一 著
<あらすじ>
妻も、読者も、騙される! 『悪人』の作家が踏み込んだ〈夫婦〉の闇の果て。
これは私の、私たちの愛のはずだった――。夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、桃子は誰にも言えぬ激しい衝動に身を委ねるのだが……。夫婦とは何か、愛人とは何か、〈家〉とは何か、妻が欲した言葉とは何か。『悪人』『横道...
トラバありがとうございました。
こちらもトラバさせていただきました。
読破されている書籍も似たものが多いので、互いの読書感や、新刊の紹介などできればいいなと思います。
リンクさせていただきます。
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