高校入学を機に、琵琶湖畔の街・石走にある日出本家にやって来た日出涼介。
本家の跡継ぎとしてお城の本丸御殿に住まう淡十郎の
“ナチュラルボーン殿様”な言動にふりまわされる日々が始まった。
実は、日出家は琵琶湖から特殊な力を授かった一族。
日出家のライバルで、同様に特殊な「力」をもつ棗家の長男・棗広海と、
涼介、淡十郎が同じクラスになった時、力で力を洗う戦いの幕が上がる…!
これまで京都、奈良、大阪が舞台だった万城目ワールド。今回の舞台は滋賀です。
主人公日出涼介は能力を認められ、高1になった年に日出本家の城に住むことになります。
持ち前の能力を磨くとともに、舟で送り迎えされて赤い詰襟で高校に通い始めます。
伯父淡九郎、家政婦のような濤子、従兄淡十郎、人の心を聞いて引きこもりになった清子。
いずれも濃いキャラクターの同居人たちと、時代劇のような生活を始めます。
物語は涼介の学校生活に加え一族の奇妙な儀式や「力」について学ぶ様を描いていきます。
処女作からずっと読んでいますが、今回は特にお話の勢いが力強かったです。
序盤はどんな展開をするのかがわかりませんでしたが、とにかく読み進めました。
まるで戦国時代のようにいがみあう一族の矜恃と滑稽さもよく伝わってきます。
半分くらいで繋がりが見えてきて、いろんなセリフが整合性を持ってきました。
中盤過ぎ位からはどんどんページをめくらせる勢いがありました。
事態は元城主の家系の校長が、両方の一族に湖畔から三日以内に出ていくように申し渡し、
強烈な「力」でそれぞれの当主を昏倒させて、一族を揺るがす大事件から突然、急展開。
涼介、淡九郎は、清子のパワーに助けられ、敵の棗広海と協力して対応します。
特に涼介と広海がふたりあわせて力を発した時に、すさまじい音が発生。
そのあとは超能力と「琵琶湖のぬし」との関係をめぐり奇蹟、どんでん返しの連続です。
この物語は、超能力描写のあれこれがいい味を出しています。
特に、タイトルになっている「しゅらら」「ぼん」の音だけでないのがさすがです。
涼介が湖畔で吹き鳴らすトランペットを始め、水と音との関わりがちりばめられています。
音の振動数が人体の水に作用し「力」となる、という神話的な解き明かしにも繋がります。
「ジョジョの奇妙な冒険」第二部のジョゼフ・ジョースターが使う波紋を連想しました。
民話的な落としどころもあちこちにあり、滋賀の魅力を大いに感じるような内容です。
寿命四十万年に及ぶ琵琶湖と民の関わりという大きな場所に着地した終幕は見事です。
普通の人が考えないようなストーリーをまたまた頑張って編み出し楽しませてくれました。
古めかしくおどろおどろしい伝奇的な題材を背景に人外魔境と現代のファンタジーを融合。
ちょっと怖いオカルトへの興味をかきたたせつつ、その本質はコミカルな青春小説です。
オカルトと青春とユーモア。妙な取り合わせですがバランスの良さなのか面白かったです。
今回も本当によくこれだけのストーリーを考えることができたなと思う作品でした。
奇想天外なアイディアとユーモラスな筆致、スピーディな展開で一気に読めました。
500ページ近い大作でしたが楽しい時間を送れました。いつもの自然体で愉快です。
ラストは思い切ったタイムファンタジーですが、もうひとつどんでん返しもあります。
琵琶湖の青い水を背景に青春物語として甘酸っぱく切ない後味が広がる終わり方です。
濱田岳さん、岡田将生さんの映画はかなり原作に忠実に描かれていたと感心しました。
「偉大なる、しゅららぼん」万城目学さんの滋賀物語。次は何県が舞台か楽しみです。
地域的には和歌山県、兵庫県、愛知県あたりになりそうですが誘致する動きはないかな。


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「偉大なる、しゅららぼん」万城目学
琵琶湖、行きたくなります。
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