このまま結婚していいのだろうかーー
その答えを出すため、「妙高山」で初めての登山をする百貨店勤めの律子。
一緒に登る同僚の由美は仲人である部長と不倫中だ。
由美の言動が何もかも気に入らない律子は、つい彼女に厳しく当たってしまう。/
医者の妻である姉から「利尻山」に誘われた希美。
翻訳家の仕事がうまくいかず、親の脛をかじる希美は、
雨の登山中、ずっと姉から見下されているという思いが拭えない。/
「トンガリロ」トレッキングツアーに参加した帽子デザイナーの柚月。
前にきたときは、吉田くんとの自由旅行だった。
彼と結婚するつもりだったのに、どうして、今、私は一人なんだろうか……。
真面目に、正直に、懸命に生きてきた。
私の人生はこんなはずではなかったのに……。
誰にも言えない「思い」を抱え、一歩一歩、山を登る女たちは、
やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。
女性の心理を丁寧に描き込み、共感と感動を呼ぶ連作長篇。
いずれも登山を舞台にしている連作短編集です。湊かなえさんといえばイヤミスのイメージ。
今回はサスペンス風ではなく、罪悪感や猜疑心や狂気などの恐い展開や殺人事件は皆無です。
1編目でミステリー小説じゃないと気づきました。予想外の内容で結構面白かったです。
日常の人間関係や恋愛や結婚や仕事。傷つく言葉、姉妹や知人への劣等感、感じる苛立ち。
20代から40代の女性たちが共感できる悩みを持つ主人公がどのお話にも登場します。
人間関係が一緒に登る人に限定される登山特有の状況。普段は言えなかったことを口に出し、
時には同行者と喧嘩しつつ、相手に対する感情や過去の拘りが徐々に溶けていくのです。
その過程で見つめ直し軸を明確にして僅かでも自分に自信を持てるようになる姿を描きます。
会社の同期三人組のお互いへの感情や疎外感など、女性の言動や気持ちを描くのが上手です。
細かく描写されている事柄に、そうそう、こういうことあるなと読みながら思いました。
山の美しさ素晴らしさの背景の中に、主人公の日常的な様々な問題を絡めていて見事です。
ある物語のメインキャラクターが他の物語のサブキャラクターになる、おなじみの形式で、
隣の芝生は青いことや、幸せそうでも誰もが実は悩んでいることも、よく表現されています。
美しい風景に触れ、トラブルに遭い、同行者との人間関係に悩み、登り切った達成感を得る。
人間の心理の機微を味わうことができました。それぞれ7つの山が舞台になります。
山や登山のことは全く知らない私でも、すんなりと楽しく読むことができました。
著者の湊かなえさんは登山が趣味なのかもしれないです。そう思うのは、理由があります。
登ったことがなければ表現できない位、それぞれの山のことが詳しく描かれていたからです。
最後には必ず救いの兆しがあります。雲の切れ目から青空が覗くような結末が嬉しいです。
とても前向きな気持ちになれました。いわゆる、オトナ女子の自分探しの物語です。
ちょっと自信をなくした時に、やる気を出して頑張るためにピッタリの本だと思います。
山を舞台にした「人生をそっと少しだけ後押ししてくれる小説」としてお勧めしたいです。
人生の決断やジレンマに立ち向かう女性たちの心温まる物語を読みたい方にもお勧めです。
「山女日記」湊かなえさんの、オトナ女子が山を通して自分を見つめる連作短編集です。

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「山女日記」湊かなえ
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