インターネット上ではじまる、不条理な「戦争」。確かに起こったはずなのに、その「デモ」は無かったことにされた。デモ、炎上、ステルスマーケティング、電突、ネット右翼─市町村合併を巡って、市役所VS反対派の静かなゲリラ戦がはじまった。現代の「見えない戦争」を寓話的に描く、ヒット作『となり町戦争』に続く系譜の最新作。
表題作と「戦争研修」収録。どちらも「となり町戦争」との高い関連性を感じる作品です。
始まりは二つの地方都市が統合を巡って、ネット上で激しい反対論が巻き起こることから。
生活では平穏な空気が流れている中で、反対派が主張する陰謀は本当に存在するのか?。
主人公は二つの町で様々な立場の人と出会うことによって、それぞれの真実を知ります。
自分が何を信じればいいのか悩み、二転三転していくのです。そこで出てくる内容は、
ネットにあふれる民意、ネット右翼、歴史の認識(史実と真実)、思想教育、情報操作、
ネット経由のデモ、ステルスマーケティング、などなど魑魅魍魎を思わせるほどです。
話を意図的に複雑化させてるような書き方をしているせいかスッキリしないものが残ります。
盛りあがりに欠け、モヤモヤして答えの出ない終幕。明確さをあえて避けている印象です。
思えば20年から30年前は、個人が知りうる情報は今の何十分の一という状態でした。
今の時代はマスコミに取り上げられなくても嫌でもネット等でいろんな情報が入ってきます。
情報量が飛躍的に増えた現在、作為をつけられた真実らしきものに取り囲まれています。
どんな基準をもって判断し、何を自分の真実として信じることができるのかは個人任せ。
もしそれを他者に掲げるのであれば、その責任を取れるかどうかは曖昧なままです。
情報の奔流に佇むのも物事の裏にある作為や捏造をも飲み込むのも難しいでしょう。例えば、
ネットで騒がれているという事実を知らなければ、関係もなく悪く思わないようなことでも、
勢いのある多数派の意見にうまく乗せられて問題視してしまうことって、ありがちです。
身に覚えがあるので、何を信じたらいいのだろうと主人公が悩むのもよくわかります。
みんなと足並みを揃えていないとはじかれそうで怖いし、自分の保持って本当に難しいです。
この場合、この本のよくわからない複雑なことではなく自分の身の回りの問題に置き換えて、
シンプルに考えてみると、三崎さんの言いたかったことが何となくわかる気がします。
主人公の最後の選択にすべてのメッセージが詰っている気がします。
読んでいる間中、考えさせられたり恐くなったりしながらも、とても面白かったです。
「逆回りのお散歩」三崎亜記作品の最多の要素がリアルに盛り込まれている作品でした。

楽天からも購入できます。

「逆回りのお散歩」三崎亜記
コメントの投稿