いま、世界が渇望する稀有な作家──
村上春樹が考える、すべてのテーマが、ここにある。
自伝的なエピソードも豊かに、待望の長編エッセイが、遂に発刊!
目次
第一回 小説家は寛容な人種なのか
第二回 小説家になった頃
第三回 文学賞について
第四回 オリジナリティーについて
第五回 さて、何を書けばいいのか?
第六回 時間を味方につける──長編小説を書くこと
第七回 どこまでも個人的でフィジカルな営み
第八回 学校について
第九回 どんな人物を登場させようか?
第十回 誰のために書くのか?
第十一回 海外へ出て行く。新しいフロンティア
第十二回 物語があるところ・河合隼雄先生の思い出
あとがき
「MONKEY」大好評連載の<村上春樹私的講演録>に、
大幅な書き下ろし150枚を加え、
読書界待望の渾身の一冊、ついに発刊!
エッセイというものは作家自身の個性だけでなく、生き様が現れてしまうものです。
ですので、どのような語り口、スタンスで読者に語りかけてくるのかがいつも楽しみです。
表立って顔を出さないのが作家らしいと思われますが、今回、村上春樹さんは大胆な選択。
このように作家が自分の写真を本の表紙にしているのは、とても珍しいと思います。
村上春樹さんの著書は数冊読んだくらいで先入観なく読み始め、予想以上に面白かったです。
最も興味深かったのは第二回「小説家になった頃」。作家デビューまでの経緯についてです。
就職が嫌で多額の借金を負いつつ、ジャズ喫茶店のオーナー店長として懸命に働いた日々。
ある日、神宮球場の外野で舞い降りてきたかのような感覚で小説を書くことを思い立ちます。
仕事後に台所で明け方まで執筆。文章を一度英語にして、さらに日本語に翻訳し直します。
当時、文章を書いているよりは、音楽を演奏しているのに近い感覚があったとのこと。そして
その感覚を今も大事に保っているとのこと。文章を書くことへの姿勢の発芽です。
この時期に作家・村上春樹の執筆スタイルが形づくられたことがよくわかりました。本書は
小説についての本ですが、殆ど村上春樹さんの生き方、ポリシーを語っていて面白いです。
淡々と客観的に語りつつ、深部で燃えている小説への熱い思いに引っ張られる気もします。
どんな職業でも身に着けなければならない習慣と考え方がプロレベルに達するには必要です。
なのでこの村上春樹さんの小説家としての心構えは、真の職業人を目指す人には不可欠です。
小説や文学に関心がなくても、本書にはプロとして役立つヒントが多くあります。ですので
ある意味、本書は村上春樹書下ろしの新しい視点の自己啓発本と言えるかもしれないです。
とても読みやすい文章で、独自の思想をわかりやすく噛み砕いて書かれています。
まるで「僕の生きてきたことが少しでも参考になれば」と聴衆に話しかけているようです。
人生をいかに生きるべきかを率直に、自信をもって記しているのが特徴です。
わずかの傲慢さも説教臭さも皆無で、受け入れられ、読み応えのあるエッセイだと思います。
小説同様に軽やかでありながら不思議と独特の重みが備わっているという印象でした。
他にも外国の作家や音楽家などのエピソードなどもあり、楽しく読むことができました。
それから、文学賞に関する記述も大変興味深く面白く感じました。
読了後は、村上春樹さんのこうした誠実で真摯な人柄が作品に投影されていると感じました。
「職業としての小説家」村上春樹さんの軽やかですが重みのあるエッセイです。

楽天からも購入できます。

「職業としての小説家」村上春樹
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