悲しみしかないと、思っていた。でも。死は悲しむべきものじゃない――
南の島の、その人は言った。
心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。
忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために――。
「死」に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。
そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。
そこで生まれたそれぞれの「希望」のかたちとは? 〝喪失〞から、物語は生まれる――。
「楽園」「約束」「太陽」「絶唱」の4編を収録した連作短編集です。
今回も前作の様に各短編がリンクしています。湊かなえさん特有の「毒」は入ってないです。
駆り立てられるようにドキドキしながら読める作品ではないけど、短い時間で読めました。
南太平洋の国、トンガを舞台にして、阪神淡路大震災を経験した人々が描かれています。
美しい風景と大雑把でおおらかな人たち。少なからず日本が失ったと感じられる空気感。
海外が舞台の絵空事ですが事実を交えながらのフィクションになっているのが独特です。
四人の主人公における、それぞれの内面、葛藤を丁寧な心理描写で綴っています。
他人同士の理解しあえない理由や、それぞれの思考をいかに汲み取るかなど、深い内容。
そうか、この人がこういう立場なら、こう思うだろうな、なるほどという説得力があって、
どんな登場人物にもそれなりに感情移入することができるようになるので、納得できます。
それぞれの人物の思いが一つに集約されていく構造は、これまでとほぼ同じみたいです。
でも今回は人の温かさや死、思いが繋がっていくことに焦点を当てているのが新鮮です。
ノンフィクションに近い各々のストーリーを、国際ボランティア隊として体験したことから、
人生にうまく織り交ぜることができた手記とも言えそうな一冊だったように思います。
特に今回は宗教にまつわる死生観も描いています。色々と考えさせられる面が多かったです。
湊かなえさんの小説の大きな特徴になっている「毒」を求めると物足りないかと思いますが、
揺るぎなき事実を交えて書いてある事で深いストーリーになっています。
湊かなえさんは阪神淡路大震災の被災者ですが自分で被災者と認められず苦しんできました。
20年という長い時間が、こうして書けるようになるまでに必要だったのでしょう。
ずっと苦しかったですね。湊かなえさん。作家になった意義と醍醐味を受け取れました。
そしてトンガに限らず震災の際、救援に来て下さった諸外国の皆さん、本当にありがとう。
初版発行日が2015年1月17日、阪神淡路大震災から20年の節目の日に拘りが感じられます。
「絶唱」湊かなえさんの喪失と再生を描いた、心温まる読後感の良い作品集です。

楽天からも購入できます。

「絶唱」湊かなえ
[C19705] 管理人のみ閲覧できます