「侮ったら、それが恐ろしい女で」。高校までは、ごく地味。短大時代に潜在能力を開花させる。
手練手管と肉体を使い、事務員を振り出しに玉の輿婚をなしとげ、
高級クラブのママにまでのし上がった、糸井美幸。
彼女の道行きにはいつも黒い噂がつきまとい―。
その街では毎夜、男女の愛と欲望が渦巻いていた。
ダークネスと悲哀、笑いが弾ける、ノンストップ・エンタテインメント!
中古車販売店の事務員、雀荘のバイト、高級クラブのママ。どれも糸井美幸。
短大卒の普通の女性が20代後半までのわずか数年間で、どうやって変わっていったのか。
最初の話を読み終えた時、この調子で残り9話を展開することに不安を覚えましたが、
そこは実力派の作者らしく、最後まで読者の興味を減らすことなく読ませていると思います。
元同級生、仕事の同僚など、個人的に関わりを持つ各話の主人公たちの眼を通して、
謎の女・糸井美幸の言動について、謎を残しつつも明らかにしていきます。
立場はサラリーマンやOL、無職の女、会社社長や檀家に刑事とバラエティー豊かです。
最初は短大デビューの軽そうな女性から始まり、最後は犯罪の匂いがする危険な女までの道。
素養があったのかもしれませんが、糸井美幸の変貌ぶりが物語として楽しめます。
最初は浅く薄かった糸井美幸という女の姿が、いつのまにか濃くなり次第に強くなります。
おそらく、ある有名な連続殺人事件の容疑者をもとに、「噂の女」をモチーフにして、
「彼女」をとりまく現代の、とある地方都市の人々の実体をシニカルに描写しています。
物語の構成上、美幸の視線から内容について語られることは一切ないのが逆にリアルです。
人間が持つ破綻してしまう弱さ滑稽さが魔性の女に対する気持ちに凝縮している興味深さ。
決して善人ではない登場人物たちが、狭い世界の中で美幸に振り回されている様子は、
コミカルですが、それに加えて哀愁さえ醸し出している雰囲気に作者らしさを感じました。
前半は低く響かないメロディーが次第に音色を高めてゆき、最後に頂上に行き着く感じです。
周囲を踏み台にする「噂の女」奥田英朗さんの洞察力とドキュメンタリータッチは健在です。

楽天からも購入できます。

「噂の女」奥田英朗
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柳ヶ瀬を中心とした地方都市を舞台に、地方都市だからこその世間の狭さ、しがらみの多さ、楽しみの少なさ故の下世話な噂話の広まり方の速さ、そういった、やや息詰まる社会の中、やたらと目立ち、良くない噂がつきまとう女。
その噂が積み重なっていく形で展開していく連作短編型長編になっています。
世間が狭く、しがらみが強くて善悪の判断よりも、持ちつ持たれつが協力に幅を利かせまくって、公務員の力が...
噂の女 奥田英朗
新潮社
2013.11.6
中古車販売店の女
麻雀荘の女
料理教室の女
マンションの女
パチンコの女
柳ケ瀬の女
和服の女
檀家の女
内偵の女
スカイツリーの女
閉塞感溢れる地方都市。
中学・高校時代は、地味で目立たないコだったのに、
短大デビューして、年上の彼氏、キャバ嬢から、
墓地の分譲会社社長の愛人
→ 土建会社社長の...
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