輝かしい自分史を残したい団塊世代の男。スティーブ・ジョブズに憧れるフリーター。
自慢の教育論を発表したい主婦。
本の出版を夢見る彼らに丸栄社の敏腕編集長・牛河原は「いつもの提案」を持ちかける。
「現代では、夢を見るには金がいるんだ」。牛河原がそう嘯くビジネスの中身とは。
現代人のいびつな欲望を抉り出す、笑いと涙の傑作長編。
主人公は弱小出版社の編集部長、牛河原。ダーティで狡猾で、とても印象深い人物です。
牛河原は強い自己顕示欲を隠し持つ人を探し出し近づいて、本の出版を持ちかけます。
インテリ志向で自己主張が強く、プライドが高い傾向の人たちを言葉巧みに誘導するのです。
自分が書いた本が出版されることで著者は満足し、出版社は利益を得る構図です。
あの手この手の説得や同業他社との争いに打つ一手など、戦略に長けています。
邪道なビジネスを描きながら、現在の文学界と出版業界が抱える問題を浮かび上がらせます。
業界人が内幕を暴露するような話です。それだけでなくテレビ畑出身の百田尚樹さんだけに、
読者を楽しませるエンターテイナーとしての心配りが至る所にちりばめられています。
さりげない描写に心惹かれる表現が次々と登場するので、最後まで飽きずに読めました。
中には牛河原の言葉で著者自身のことをこき下ろすという、自虐的で遊戯心を感じる場面も。
ユーモアとしたたかな智慧に満ちた、ある意味ピカレスクな魅力のある人物像と言えます。
怒る苦情客を最後には感謝と喜びへと見事に変えてしまう口八丁ぶりには舌を巻きました。
現実生活にも応用できそうな会話には、百田尚樹さんの奥深い人間力が想像できます。
そんな牛河原にも人間味を感じるところが見られ、ネタバレになるので内容は書けませんが、
最後は気持ちのいい終わり方をします。この最後に用意された仕掛けは素晴らしいです。
それまでの生臭いブラックな話は、この結末のために用意されていたようで、驚きと感動があります。
リアルな現実を突きつけられた後に、救われる気分が訪れたような感じで読み終えました。
「夢を売る男」百田尚樹さんの才能を楽しめる、辛辣な遊び心に満ちた物語。面白かったです。

楽天からも購入できます。

「夢を売る男」百田尚樹
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1 太宰の再来 2 チャンスを掴む男 3 賢いママ 4 トラブル・バスター 5 小説家の世界 6 ライバル出現 7 戦争 8 怒れる男 9 脚光 10 カモ 百田尚樹のまた新しい一冊。 出るたびに新しいジャンルに挑戦するかのようであるが、今回の舞台は出版社。 主人公はその…
百田 尚樹「夢を売る男」太田出版,2013
これは小説としても、業界暴露本としても楽しめます。
主人公は、敏腕編集者・牛河原勘治。自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーター、ベストセラー作家になってママ友たちを見返してやりたい主婦などなど、多くの「著者」に自費出版…じゃなかった、ジョイント・プレス方式を持ちかけてい...
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