静かにあたためてきた想い。
無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。
彼女の答えは―今はただ待ってほしい、だった。
ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。
謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。
脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。
だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。
邂逅は必然―彼女は母を待っていたのか?すべての答えの出る時が迫っていた。
ビブリア古書堂シリーズの第5弾です。例によって北鎌倉付近での古書をめぐる謎を、
語り手たるアルバイト店員の「俺」五浦大輔と、古書店主の篠川栞子さんがコンビを組み、
解き明かしていく、という流れは続いています。歯痒いほど遅々として進まないロマンス。
本を題材にした謎解きが面白いので、進展はもっと先になるのかも、と思っていました。
前巻で栞子さんに不器用な大輔が思いを打ち明け、返事を下さいと言った続きです。
3話構成で、次巻に繋がるエピローグという内容です。
プロローグとエピローグはリチャード・ブローディガンの「愛のゆくえ」です。
1話目は古書に関係した月刊誌、「彷書月刊」をめぐる物語。
2話目は手塚治虫の「ブラック・ジャック」に関する、誰もが知っていそうで知られざる話。
3話目は寺山修司の「われに五月を」を題材にした作品になっています。
手塚治虫と寺山修司にまつわるエピソードは、それぞれの背景まで深く調べられています。
無理なく作品に組み込まれていて、単なる読み物以上の広がりを感じることができました。
ビブリアは通常、主人公である「俺」五浦大輔の視点で描かれていますが、今回は変化が。
章と章の間に、目次にも書いてない「断章」があって、短いエピソードが追加されています。
別のキャラクター視点で描いたもので、それぞれの話をつなげる構成になっているのです。
これが良い感じの「仕掛け」になっていて、エピローグに繋がっています。
普通に読むと、たぶんエピローグで戸惑います。矛盾していることがあるからです。
しかし、よく読むと「ああ、なるほど」と腑に落ちるところがありました。
「断章」が視点を替えて書かれている理由がここにあります。少しネタバレですが、
終盤の、栞子さんと母親の会話で語られたエピソードに出てくる日付がポイント。
それらを踏まえてプロローグをもう一度、よく読み返してみると「謎」が解けました。
ハッキリとは載っていませんが、あえて答えを語らず読者に理解させるワザに驚きです。
ミステリはよく読むほうですが、こういうやり方はミステリとしても珍しいと思います。
各話だけでなく一冊の本の中にも、なかなか憎い仕掛けをしていて感心しました。
少し足踏みみたいな感じはするのですが、長く読んでいたいのでとてもうれしい内容でした。
「ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時」三上延さんにこれからも期待しています。

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