なんのために、その仕事を続けているのか。
三崎亜紀の想像力が拓く、新境地にして真骨頂。
ルポライターとして働いてきた「私」は、20年の節目を迎え、
請け負い仕事をこなす中で「見逃してしまったこと」
「過ぎ去ってしまったもの」を、あらためて取材して回った。
細々と継承された伝統工芸、埋もれようとしている技術、
忘れ去られようとしている出来事……。
消え去るものと受け継がれてゆくものがある。
それを記録して残すことに意味があるのだろうかーー?
あり得るかもしれない現実と地続きの不条理から、
現在の私たちの姿がくっきりと浮かび上がる。
人の人生に意味はあるのか?
意味を失ったのは、世界か、あなたか?
架空のルポルタージュという形を得てさらに大きく飛躍した、
三崎亜記の想像力が拓く、新境地にして真骨頂。新たなる傑作です!
今回は競技物ではないみたいと思いつつ、タイトルに惹かれてなんとなく読んでみました。
相変わらず、筆致というかなんというか、気持ちが軽いままに読み進むことができます。
いつも「不思議な世界を構築する人だなあ」と思ってましたが、今回はドキュメンタリー風。
ただただ玉を磨き続けるだけの伝統産業。通勤のために運行するのは観覧車。
見えない何かを追いかけて捕まえて売り買いする人々など、独特の生活感があります。
ファンタジーが苦手な方は違和感を覚える部分も多いかも、なんて思ったりもしますが、
この作風に慣れ親しんでいたので、ある意味、とても興味深く読むことができました。
その事物が何故そこにあるのか、どうなってゆくのか、決定的な答えを出さないのが特徴。
そして今回は、そんな非日常を日常として生きる人々の生活と想いを淡々と描いていきます。
世界の片隅で己の心に従って、こつこつと秘めた想いを自分なりの形にし続ける人々の話。
成果が最優先の世界であれば「徒労」や「無駄」と呼ばれそうなことも、ここでは大切なこと。
構成も世界観も文章も思いの切なさもよかったです。不覚にも何回か涙ぐみました。
三崎亜記さんの構築する非日常世界は、いつもとても魅力的です。
現実を生きる私たちの気持ちにフィードバックされる部分も多いのが特徴のひとつです。
ストーリーの具体的なイメージが頭のなかで同時進行していくのも素晴らしいと思います。
「玉磨き」三崎亜記さんの、読んで充実感を覚える物語に出会えてよかったです。

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「玉磨き」三崎亜記
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