英米ロックが百花繚乱の様相を呈していた70年代。
世界地図の東端の、そのまた田舎の中学生・オクダ少年もその息吹を感じていた。
それはインターネットが登場する遥か前。
お年玉と貯金をはたいて手に入れたラジオから流れてきた音楽が少年の心をかき鳴らした。
T・レックス、ビートルズ、クイーン…。
キラ星のごときロック・スターたちが青春を彩り、エアチェックに明け暮れた黄金のラジオ・デイズ。
なけなしの小遣いで買った傑作レコードに狂喜し、ハズれレコードを前に悲嘆に暮れる。
念願のクイーンのコンサート初体験ではフレディ・マーキュリーのつば飛ぶステージに突進!
ロックのゴールデン・エイジをオクダ少年はいかに駆け抜けたのか?
小説と勘違いして読み始めたら、奥田英朗さんの中高時代を綴った青春エッセイでした。
これまでの奥田英朗さんのエッセイは、クセが強くて独善的なイメージがありました。
今回も、俺は昔の田舎町で誰よりも早く洋楽を聴いて目覚めていて偉いんだぜという印象。
小説と同じような内容を期待すると肩透かしを食うはめになるでしょう。
でも確かに、わずかな情報を集めて覚えて忘れないオクダ少年の知識は大したものです。
通常の小説とは違い好みは別れるでしょうが熱心という点では親近感が持てる作品でした。
個人的には少し後の時代ですが、音楽について少し似た価値観だったのが嬉しかったです。
70年代と言えばまだ不自由な時代。地方ゆえに情報は少なく少年ゆえにお小遣いにも限界が。
ロックが好きで好きで仕方がないのに僅かなものしか得られず飢えまくっているオクダ少年。
ロック雑誌のアルバム評を何度も読み、名盤であると念じて当時2500円もしたLPレコードに
一か八かでお小遣いを費やし、名盤であれば喜ぶし、外れた時の落胆と悲しみの大きな落差。
それを我慢して聞きこんでいるうちに愛聴盤になってしまう過程も、まさにあるあるです。
その当時のリアルタイムでそのアーティストを聴いた者でしか感じられない興奮やワクワク
ドキドキ感は、今そのCDやレコードを聴いたとしても味わうことはできない貴重な体験です。
文章表現はプロの作品ですが、ストーリーは素のオクダ少年のノンフィクション物語。
奥田英朗さんがロック評論家として懐かしの楽曲を紹介するガイドブックという側面も。
一般的な70年代ロックの案内書と照らし合わせてみても遜色ない内容で感心しました。
「田舎でロックンロール」奥田英朗さんのいとおしい日々を描いた素敵なエッセイです。

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「田舎でロックンロール」奥田英朗
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