202X年9月30日の午後。日本の某空港に各国からの便が到着した。
超巨大台風の接近のため離着陸は混乱、さらには通信障害が発生。
そして入国審査で止められた11人(+1匹)が、「別室」に連行される。
この中に、「消滅」というコードネームのテロを起こす人物がいるというのだ。
世間から孤絶した空港内で、緊迫の「テロリスト探し」が始まる!
読売新聞好評連載小説、ついに単行本化。
空港内に隔離された10人の接点のない人たち。男性6名、女性4名、子供一人、犬一匹。
ミステリーでありサスペンスであり近未来SFであり陪審員の会議も思わせる物語ですが、
閉鎖空間で無関係の人々によって繰り広げられる、犯人探しのための会話劇という印象です。
最初から多人数の視点で物語が進むので、誰が誰だかわかりにくく区別するのが大変でした。
登場人物は何々の男、何々な女などの形容詞で語られるため、全容の把握が難しかったです。
だけどたぶん、恩田陸さんの意図的な設定と感じられます。不明瞭な雰囲気があることで、
先が気になり、読み進む推進力やモチベーションとなって、真相を知りたいと思えました。
職業も年齢も異なる登場人物達が互いに何かの関連を匂わせつつ、テロリストの正体を探索。
ただ、登場人物の誰もがかなり知的で博識な言動をしているのが少し気になりますが、
登場人物それぞれが持つ視点、個性的な感性で紡がれていく物語に引き込まれます。
誰が誰を疑いどう見ているのかが明らかにされ、少しずつ人間関係が深みを増していきます。
引き込まれる指数はかなり高い感じで、こんな書き方もあるんだと恩田陸さんの思惑に感心。
一種の心理戦ですがミステリー好きの期待に応えるかというと少し違うような気がします。
つきものの感情爆発の緊迫感や一触触発の雰囲気が出てくることがなく、設定が近未来で、
場を取り仕切るキャラクターの影響もあり、何となくほのぼのと物語が進んでいくのです。
場面転換も乏しくほぼ会話のみで展開されるため、単調になり気味でやや長いと思いますが、
徐々にページが進むにつれて新たな展開が続いて起こり、飽きることはなかったです。
核となる話以外に様々なサイドストーリーも楽しめ、真相もしっかり用意されています。
読み終えた後も、この物語の世界は続いていきそうな、不思議な感覚の残る作品です。
「消滅 VANISHING POINT」恩田陸さんの様々な要素を持った、新聞好評連載小説です。

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「消滅 VANISHING POINT」恩田陸
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