出産を巡る女性の実状を描く社会派ミステリー
親子3人で平和に暮らす栗原家に突然かかってきた一本の電話。
電話口の女の声は、「子どもを返してほしい」と告げた――。
「子どもを、返してほしいんです」親子三人で穏やかに暮らす栗原家に、ある朝かかってきた一本の電話。
電話口の女が口にした「片倉ひかり」は、だが、確かに息子の産みの母の名だった…。
子を産めなかった者、子を手放さなければならなかった者、両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長篇。
「子どもを産めなかった側」の事情と「子どもを手放さざるを得なかった側」の事情。
特別養子縁組をテーマの一つにした、二つの視点で構成されている長編小説です。
この制度、特別養子縁組のことを詳しく知らない私には、驚かされることが多かったです。
子どもが欲しい親が子どもを探すためのものではなく、子どもが親を探すためのもの。
特別養子縁組を斡旋する団体の説明会を描く場面は、前半のハイライトで感動的です。
ひとつの出会いの形の特別養子縁組。夫婦はひとつの縁を大切にして家族になっていきます。
その姿には愛情の強さと輝きを感じます。この制度を前向きに捉えることができました。
行き場のない子どもたちのために、こんな風に家族として迎えることがあってもいい。
ひとつひとつ積み重ねて家族になっていく様子には、実の親子にはない決意が伝わりました。
ここまでは「子どもを産めなかった側」が救われるような展開を予想していました。
ですが、前半で抱いた感想と、後半から抱き始める印象が、かなり違ってきます。
読み進んでいくと、実親の生き方については辛く苦しく思う場面が続きます。
「手放さざるを得なかった側」についての物語の比重が高くなっていくのです。
そして救われるべきなのは「産めなかった側」だけではないことが描かれていきます。
立場が違うと、こんなふうに思うんだなと感じながら引き込まれます。
もし同じ事が起きたら、どのような向き合い方をするのかと悩んで考えました。
そして最後にやっぱり泣けます。「結」の章では涙が止まりませんでした。救われます。
朝斗(あさと)くんは、これからも両親の深い愛情の元で、幸せな人生を歩むでしょう。
朝が来た後は、しっかり自分の人生を歩めるひかりであって欲しいと願っていました。
ラストがとてもいいです。心が挫けやすいので、救済の結末に目頭が熱くなりました。
『大人の土ドラ』2作目として安田成美さん主演、川島海荷さん共演でドラマ化されました。
変更された箇所も多々ありましたが、見ごたえのあるドラマになっていたと思います。
「朝が来る」辻村深月さんの親と子の縁と愛情の物語。読んでよかったです。

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「朝が来る」辻村深月
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