まったく新しい「町興し」小説、ここに誕生。
ターミナルタウンとして鉄道とともに発展してきた町、静原町。
しかしあるとき、乗り換え路線の廃止により、
ほとんどすべての列車が、この町を通過することになった――。
鉄道に忠誠を誓った町が、鉄道を失ったとき。そこには何が残るのか。
凋落したこの町に、人を呼び戻すことはできるのか。
さまざまな人の思惑が交錯する、誰も見たことのない「町興し」小説。
「影」を失った男。闇を浴びて育つ「隧道」。見えないけれど「ある」ことにされているタワー。
五百人以上を乗せて、姿を消した「下り451列車」。町興しを手掛ける「接続会社」の思惑。
様々な問題を抱え込んだまま、静原町に大きなうねりがやってくる。
誰よりも緻密に「架空」を描く著者による、待望の長編小説!!
想像以上のファンタジー要素たっぷりの長編作品です。楽しめました。
登場人物の主役と脇役が次々に入れ替わることで視点が変わっていく構成が面白かったです。
各人を通して物語が進んでいくのは列車を乗り継いで目的地に向かう鉄道の旅のようでした。
鉄道のための街、車ではたどり着けないという特異な設定がとても気に入りました。
でも地域再生の物語とは異なります。地域再生は物語の主題ではなく舞台装置の一つです。
象さんすべり台とか廃墟や歩行技師など、過去の短編のモチーフがいくつか再登場します。
今迄出て来た要素もありつつ隧道士という技能者も登場して相変わらず面白い世界観です。
日常の当たり前のことを、ドキッとするような展開で感じさせるのも相変わらず上手です。
三崎作品の短編小説既読なら嬉しい設定もありますが、他の作品とは少し毛色が違う印象。
というのも、これまで通り町を描いているのは三崎作品の特徴なのかなって思うのですが、
三崎ワールドって部分的な不条理があり、それに対応した政策や生活を基に描いているという
作品が多いのですが、この物語は「不思議」が不思議のまま終わらず説明が施されています。
特にタワーは今迄だったら謎のままで終わっていたんじゃないかなって思う様な事も、
今回はすっきり解決される感じで終わっていました。
そういった意味では、不条理世界が好きな人には、やや消化不良だったかもと思います。
テーマの光と闇というのも違う表現に置き換えられていたら良かったような気がします。
ただし、エンターテインメントとしての出来は素晴らしく、伏線の回収の度に唸りました。
ユニークな設定が沢山折り込まれてるにも関わらず、お話としてはわりと定型だったのが
少し惜しかったような気もしますが、考えてみると、これこそが持ち味というべきかもです。
今回は、ちょこちょこ出てくる軽妙な笑いを誘う語り口も面白かったです。
清濁併せ飲む判断に共感できる大人が読むファンタジーだと思います。
「ターミナルタウン」三崎亜記ワールドの新たな要素も垣間見える長編作品です。

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「ターミナルタウン」三崎亜記
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