「武藤、別におまえが頑張ったところで、事件が起きる時は起きるし、起きないなら起きない。
そうだろ? いつもの仕事と一緒だ。
俺たちの頑張りとは無関係に、少年は更生するし、駄目な時は駄目だ」/
「でも」/
うるせえなあ、と言いたげに陣内さんが顔をしかめた。/
「だいたい陣内さん、頑張ってる時ってあるんですか?」/
と僕は言ったが電車の走行音が激しくなったせいか、聞こえていないようだった。(本文より)
直木賞候補になった連作短編集「チルドレン」の続編です。実は、ずっと待っていました。
家庭裁判所の調査官の陣内が今回も期待を裏切らず、何度も呆れ、笑い、終わりには涙。
陣内は頭の回転が速く、本気で言ってるのか判らず、減らず口が得意で、面倒くさい人。
無神経なように見せかけた気遣い性で、諦めない人物。かなり周囲にも迷惑をかけます。
でも、実は女性にもてる。関わる若者からも慕われる存在であることから、たぶん、
どこかで必ず相手のことを考えて行動している(のだろうと読者は思いたい)人。
居なさそうでいて、どこかに居そうな、心の中はすごく温かいはずのキャラクターです。
伊坂作品にしばしばでてくる、露悪的ですが何故か好かれるヒーローの典型ですが、
よくこのような人物を描けるものだなあと、改めて不思議に思いながら楽しく読めました。
その部下の武藤は真面目で常識的で、自分の内面を見つめることのできるキャラクター。
少年の処分を考えながら世の中の矛盾を思ったり、いつのまにか友達が増えていったり。
このふたりの軽妙な会話が、ストーリーを転がしていきます。
少年事件を扱うわけですが、やりきれないのもあれば、はらだたしいのもあります。
表層だけだと感情的に感じてしまうことも背景を知っていけば何も言えなくなります。
そんな題材を、先の読めない展開で、テンポよく考えさせてくれます。
陣内のわけの分からないタイミングで出てくる名言?に呆れたり苦笑したりです。
結果的に、いろんなことがつながって、世の中っていいな、と思えるストーリーでした。
強盗や泥棒や死神や殺し屋は出ない点で、心地よい読書時間が確約されたような作品です。
あっという間に読んでしまいました。登場人物のキャラが本当に秀逸です。
最後の終わり方から考えて続編がありそうですね。楽しみに待っています。
「サブマリン」伊坂幸太郎さんの「チルドレン」を読んだ人は絶対読んでおくべき一冊。

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「サブマリン」伊坂幸太郎
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